さわってみたDebianのSHアーキテクチャ移植版

# 東京エリア Debian 勉強会課題文書として作成
 近年、どうにも盛り上がりに欠けるSHアーキテクチャなのだけど、kernelやgccの対応は地道に続けらている。
 一時はDebianの正式対応アーキテクチャになれるようにという動きもあったようだが、現在はそういった動きもなく低調。数年前にsidをベースにdodesプロジェクトがリリースした環境が最もまとまったディストリビューションであったが、それすら簡単にインストールを行うことも難しい状態であった。それでも国産CPUであるSHシリーズは国内では人気があり、いくつかの組み込み系のLinux実装が販売されていて、細々とメンテナンスされている。中には、株式会社シリコンリナックスのように 自社のボード向けに Debian をベースにしたディストリビューションを保守しているところもある。
 SHの使われる組み込み環境では、商用の組み込みディストリビューション実装があっても、それらはNDAや利用契約で縛られていて、なかなか一般の人は入手がしがたいし、自由に再利用できる環境としてソフトウエアが提供されることは稀である。さらにハードウエアに至っては趣味や学習向けとしても5〜10万円の投資が必要であり、使いたいと思ってもなかなか手の出るものではない。以前のようにドリームキャストPDA類のようなSHをベースにしたリテール品があり、その移植がある程度進んでいれば、まだ利用者、開発者ともに増えてゆく可能性があるが、このまま状況が変化しなれば、SHでのLinux実装は一般の人の目に見える場所から消えてゆき、インハウスにだけ存在することになりかねない。
 国産で、海外ではあまり使われていない超マイナーなCPUでありバリエーションも少なく単価も高いとなれば、国内での対応を進めなければこのまま火は消えてしまうかもしれない。そのような状況はあまり面白くないので、昨年から iohack project を土台に再度の盛り上がりを仕掛けようといろいろな取り組みを行っているところだ。
 幸い、その一部が実を結んで、I-O DATA の HDL シリーズのハードウエア上で動作する Sarge 相当のディストリビューションの利用ができるようになってきた。これは細渕氏によるハードウエア・ソフトウエアの解析情報の提供やliloの改造、iWA氏による base と pool の構築と提供作業のおかげだ。最近では、iohack 以外のところでも kogiidena 氏による kernel2.6 のテスト実装も出ており、それをベースにした pbuilder でのパッケージ自動作成が海老原氏によって進められている。
すばらしいことだ。
 昨年、UNIX USER 誌に HDL シリーズの Debian 化カスタム方法を記載した記事を書かせていただいたが、その反応として、興味はあって雑誌もHDLも購入したのだが、ハードウエアの改造という点で、普通の方には大きな抵抗があることがわかってきた。近年のPCの高発熱と高騒音化によって、PCアーキテクチャが家庭でのサーバー運用に適さなくなってきており、ローパワーで静かなサーバーが望まれており、ニッチではあるが市場が存在するのも見えてきた。そこで、業務の一環として、Debian が動作するSH環境のハードウエアと、IA-32環境で動作しSHの起動HDDを作成するLiveCDのインストーラーを企画作成してみた。一部のドライバを除いて、オープンソースの部品ばかりで構成されているので、カスタムも自在にできる。LiveCDの作成にはbootcdパッケージを利用してみた。# 比較的簡単にLiveCDが作成できるものの、FDが必須であるなどのいくつか問題を持っているように思われた。
 製品としてはノンサポートにはなるが、発売をきっかけに SH-Linux に触れる人材が増える事を期待したい。組み込みにLinuxを利用しているメーカーに勤務するものとして、会社レベルでのコミュニティへのフィードバックはなかなか難しいものがあるが、コードや資金の提供ではなく、このような形での貢献というのもありうるのではないかという1つの可能性を示す事ができたのではないかと思っている。