対談 30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと

第1回 役所は「ドリフ」から「ひょうきん族」に 官民共同のために技術よりも大切なこと
http://diamond.jp/articles/-/27993

 具体的に何をしていたかというと、おもしろい研究者やベンチャー起業家を一部屋に集めて、「最近大雑把にこんなことを考えているんだけど、みなさんで議論して、このアイデアを具体化する面白いプロジェクトつくれるか検討してみてください」と伝えて、私はドアを閉めて去っていくということを繰り返していました。そんなことをする官僚はいなかったので、最初はみんなびっくりしていましたけど、慣れ始めると「宇佐美の缶詰方式」と呼ばれるようになりました(笑)。

 私自身について言えば、東日本大震災をきっかけに振り切りました。それ以前はあくまで官僚組織の中で、組織が決めた台本どおりに動いていたんですけど、震災を機に、役所に求められる本当の役割は何かを問い直しました。そのとき思ったのは、もう役所は民間の知恵には適わないってことです。だからといって役所が不要だと思いませんでしたし、むしろリーダーシップを持って次世代に希望を持てるビジョンを提示することも求められていると強く感じていました。

 それで、さんざん悩んだ末に、これからの役所には民間の知恵を思いっきり引き出す仕組みが必要になると思ったんです。面白い人がたくさん集まって、台本もなく、大きな目標は共有して、自由闊達に議論をできる環境を整えてみようと考えました。そうしたら予想もしない凄いものが生まれてくるんじゃないかって。


第2回 外資系企業に転職するエース級官僚たち 民主党政権に若手職員が失望する理由
http://diamond.jp/articles/-/28443

宇佐美 一番厄介なのは、「出世しようとする人」ですよね。そういう人は、上司にゴマをすって、部下を酷使することによって結果を出すので、ほどほどに出世してしまうんですよ。ただ、そういう人は権力者にすり寄ってきただけで、自分で道を切り拓いてきたわけではないので、リーダーの立場に立つと政策があっちに行ったりこっちに行ったりとブレて骨太な政策がつくれません。

宇佐美 私も最初は「自分が経産省を変えてやるんだ」と思って働いていました。でも、民主党政権になってからはそういった考えを持てなくなりました。「政治主導」の名の下に政治家が好き勝手しているのを見ているうちに、自分は所詮一官僚に過ぎないんだ、ということを良くも悪くも痛感させられました。手の届かない政治の部分が崩落してしまうと、どうしようもできませんから。やっぱり、政治家がしっかりしないと役所は立ち直らないと思います。

宇佐美 あまり自民党を褒める気もありませんが、自民党政権下では大臣などの有力な国会議員は官僚としっかり議論して物事を決定していました。政治家の政治決定と官僚による事前検討のバランスが民主党政権よりはずっとよかったと思います。省庁間の連携にしても、特に小泉政権から麻生政権までは、政治家が主導してテーマを設定し、官僚と協働しつつ、省庁間の調整を取り仕切ることは珍しいことではありませんでした。

宇佐美 民主党政権になってからは、政治家が物事を一方的に決めて官僚を管理する、という方向に変わっていきました。マニフェストに代表されますけど、おかしいことでも、政治家の決めたことには異論を挟んではいけないような雰囲気ができあがった。
 おかしいことはまかり通るのに、こちらが真剣に考えて未来に向けた提案をしても否定されてしまう。「官僚が偉そうなことを言うな」と政治家に怒られたり、蓮舫さんじゃないけど一方的に官僚が叩かれたりしてしまうので、積極的な提案は行いづらくなりました。今、色々問題が指摘されているエネルギーの固定価格買取制度にしても、CO2の25パーセント削減にしても、官僚としっかり議論せずに一方的に決められたものでした。逆に、マニフェストが行き詰まってからは、手のひらを返したように官僚機構に全面的に依存するようになるんですけどね。

 何よりも、民主党政権は、法律上の手続きをいとも簡単に無視することが堪え難かったんです。卑近な例ですと公務員の賃金引き下げでしたが、他にも八ッ場ダムの建設中止や浜岡原発停止といった重要な政策判断を、法律上の手続きを無視して勝手に決めてしまう。僕は、まがりなりにも自分が日本というアジアで最も民主的な国で、官僚という民主主義を守る立場にいることを誇りに思っていました。だから、「法律上定められたプロセスに則って皆で議論して決める」という民主主義の原則を平気で侵そうとすることに耐えられなかったんです。

宇佐美 エース候補のポストというのは法律を取り仕切る仕事なので、彼らにしてみれば、法律上の手続きを無視する民主党政権のやり方は、自分たちの仕事を否定されているようでとてもつらいのではないかと。

次回更新は、12月5日(水)を予定。
続きを読める気がしねぇ。